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S大学の文学部でジャーナリズムについて学んだ気になってるタイプの結構悲惨な学生だったりするですね。

2012年8月17日金曜日

Yの悲劇


その事件は8月12日に起きました。高校の頃の同級生Y田君が20歳のお誕生日を迎えたので、同級生が4人ほど集まりお誕生日パーリィを開いたのです。私も参加者のうちの1人でした。しかし、めでたいはずの誕生会であんな悲劇が起こるとは、その時私は、私たちは、考えもしなかったのです。

Y田君は勤勉な学生でした。学校での成績もよく、品行方正という言葉がしっくりくる真面目な人間でした。大学生活も充実していたようです。どうしても日程が合わないという事で誕生会に参加出来ずに悔しがっていた人達も多く居ました。そうです、彼は人気者だったのです。
さて、お昼過ぎくらいでしたか。みなはそれぞれ酒やつまみを買って彼の家に集まりました。私はケーキを買って来ました。集まったのは全員男だったのでケーキはどうかなとは思いましたが、やはり誕生日といえばケーキです。彼は涙を流して喜んでいました。破顔という表現がしっくり来ますかね。

先ずは乾杯ということで、みな酒を呷ります。Y田君は人生初のアルコールという事で緊張はしていましたが、缶チューハイだったのでまあ悲惨な事にはならないだろうと油断していたようです。私たちも油断していました。

そうです。Y田君は酒癖が悪かったのです。私は酒が苦手なので烏龍茶を飲んでいました。他の人達はある程度自制が効く人達だったのでまあ大した事にはならないだろうと踏んでいました。しかしY田君は違いました。友人たちは昔話に花を咲かせていました。はじめのうちはY田君も会話に参加していましたが、グラスに入れた缶チューハイが半分ほど無くなった辺りでしょうか。彼は口数が減っていき、完全に沈黙しました。彼の目つきが変わりました。何と表現すれば良いでしょうか?まるで人を殺しかねないような、そんな恐ろしい目つきでした。私が心配して近付いて声をかけると、彼は呟きました。

「黙れ。」

普段の柔らかな声とは違う、今まで聞いた事のない低い声でした。
耳を疑いましたよ。どうやら他の人達は気がつかなかったようで、それまで通りに大声で笑い語らっていました。やはり聞き間違いだったかと思って安心した矢先の出来事でした。Y田君がいきなり立ち上がり、

「黙れっちゅうたじゃろうがいやお゛ら゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 方言を炸裂させながら、彼は手に持ったグラスの中身を級友に向けてまき散らしました。山口県出身なので語尾に〜っちゃ とか〜じゃ とかが付きます。ただ広島に近いのでそちらの方言と若干混ざった恐ろしい喋り方になります。特に怒ると。標準語に変換すると「黙れって言っただろうがオラァ!!」という感じですね。
友人たちは一瞬何が起きたのか理解出来なかったのでしょう。みな一様に惚けた顔でY田君を見つめていました。私は先ず彼を座らせようとY田君の腕を掴みました。彼の目だけがぐりんと動き、私の目を見つめます。ちょっとひるみましたがとりあえず落ち着けと説得しました。するとなんと彼は私の方を見つめながら、目の前の座卓を蹴飛ばしました。級友たちの腹や足に座卓がぶつかり、うめき声が上がります。上に乗っていたグラスや空き缶やおつまみが床中に散らばりました。
私は本気で焦って級友の方へ駆け寄って無事を確認すると、どうか彼に手を出すな落ち着いてくれと小声で伝えてY田君の方を向き直ります。Y田君その場にどっかと座り、まだ空いていない缶チューハイに手を伸ばしているところでした。

終わった。

心の底から後悔しました。きっと集まった級友たちも同じ事を思ったに違いありません。
ここから先の事は口に出すのも恐ろしいです。友人総出で彼の両手両を掴み拘束したのち、私は部屋を見回しました。とりあえず誕生日会としては最悪の結果でしょう。床中が酒びたしでつまみや割れたグラスが散乱し、ケーキもぐしゃぐしゃ。彼の部屋は二度と見れない状態に。包丁を出してなかった事が唯一の救いでしょうか。

酔いが冷めたY田君はこの事を覚えていたようで、みなに泣きながら謝っていました。酒は人を変えるのだとこの身を持って知った日となりましたね。
この事件はYの悲劇と名付けられ、未来永劫語り継がれるでしょう。





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